アニメ「ケンダマスター拳(TVシリーズ・劇場版)」などの監督や、イラストレーターとして活躍されている伊藤魔鬼様より、小説「そこに沈む魔女短編集 オーフィッシュオレンジ」にコメントをいただきました。

※一部、オーフィッシュオレンジのネタバレを含みます(汗の如く カワウソよ走れ 痛みの愉しみ方)

伊藤魔鬼

 こんにちは、映画監督の伊藤魔鬼です。

 「猫と鯰舎」の「OafishOrange(そこに沈む魔女短編集 オーフィッシュオレンジ)」を簡単ではありますが、紹介させていただければと思います!

 

 この短編集は一言で言うと「いろんな味が楽しめる美味しいカレー屋さん」という印象です。作品によっていろんな味を楽しめ、「激辛カレーのように辛いのに何故かスプーンを止められない」という作品もあれば、優しい味でスッキリするマンゴーラッシーのような作品、「チキンほろほろで甘口」「スパイシーで不思議な味」といった豊富な作品が取り揃えられていて、それがクセになってぐいぐい引き込まれていきます!

 一本の世界観で繋がってはいるものの、様々な作風、登場人物のオムニバス形式で描かれているので、人によって好きな作品は分かれるかもしれませんが、「OafishOrange」には誰しも自分の好きな世界観の作品が必ずあると思います!!

 「どこからでも読める」と伺っていましたので、先入観にとらわれず読みたかったので、最新の三話分(2022年6月9日時点 最新話:痛みの愉しみ方)から読ませていただきました。

 紹介というよりは、ほとんど感想文になってしまいましたが、「この映画監督が見ると、そんな感じに見えるんだなぁ」と読んでいただければ幸いです。

 

 ここから先はネタバレを含むので要注意です!

 私主観の感想をお目通しいただければ幸いです。

 

 

 

〇「痛みの愉しみ方」

 ほろ苦くビターチョコレートのような一作目。

 傷の痛みや質感が生々しく伝わってきて、それでいて程よいユーモアを交えて世界観にぐいぐい引き込まれる作品。文体がとても読みやすく、普段活字を読めない私も引き込まれるようにすらすら読んでいて、気が付くと衝撃的なラストシーンだ。

 読んでいると香りと情景がまず頭の中に飛び込んでくる、情景表現に香りの情報がのっているのが素晴らしい。コーヒーと血の臭い、そして火薬や戦場での土の臭いすら感じさせてくれる。五感の中で数値化や記録ができない嗅覚をこの作品はしっかり呼び起こしてくれて、それが読んでいて、読者を作品の中にしっかり連れて行ってくれる。

 そして物語の中にどっぷりつかってその世界のディティールにしっかり読者を浸らせ、ユーモアやさり気ない人のぬくもりを感じている心地よい瞬間に、一気にその世界の理不尽さで幕を閉じる。

 これだけ聞くととても残酷に感じるかもしれないが、ほろ苦く、読み終わった後の読後感がとても心地よい。

 

 

 

〇「カワウソよ走れ」

 登場人物とカワウソの対比がとても面白い。

 一作目とは打って変わって、日常のさり気ない描写に徹している。読んでいてちょっと甘酸っぱい思いと、川で遊んでいるカワウソのひょうきんさにほっこりする作品だ。

 舞台ははっきりとは描かれていないのに夕方の多摩川や荒川といった、日本の風土が頭に飛び込んでくる。文章の合間からサイクリングする人たちや他のジョギングする人々の姿すら見えてくる。カワウソが日本の河川敷を泳いでる状況が違和感なくとても自然に描写されている。

 一瞬二十年ほど前に多摩川に流れ着いたアゴヒゲアザラシのタマちゃんの愛らしさを思い出したが、ああいった異質な状況ではなく、日本の風土に自然にカワウソがいるなんて、なんて素敵だろう。

 登場人物が自分に重ねて、思いをはせてランニングする光景はスッキリ気持ちいい。

 

 

 

〇「汗の如し」

 とんでもない導入を見た。こんな導入を見るのは初めてだ。状況がつかめない始まり方は主人公が感じているそれだったのだ。

 これは映画だ。文字の映画だ。

 さらにその情景をつかめない表現がセリフや感情の羅列ではなく、とてもシンプルで思いつかないような表現。

 「痛みの愉しみ方」は嗅覚で作品を見せ、「カワウソよ走れ」は視覚で作品を見せ、今度は触覚ときた。板近先生の人を作品に連れていく引き出しの多さにビビらされる。

 読んでいて読者は登場人物と同じ痛みをリアルに想像してもがき苦しむ作品である。ユーモラスな始まりからは想像できない生々しい痛みだ。

 前二作にくらべ少々設定を把握するのに何度か読み返す必要はあるものの、設定を理解しきれていなくてもこの生々しい痛みは読者の心の中にある「カサブタをはいだり、ささくれを千切るのが痛いけど癖になる」のようなMの魂を引き出してくれる。是非一読してほしい。

 

 

 

 三本通しで読んでみましたが、さまざまなバリエーションの作品群で、いろんな作風を垣間見れ、とても楽しかったです。

 普段ファンタジー作品は読まないのですが、キャラクターの主観がしっかりしていて、描写も丁寧で、するすると読めてしまいました! 

 作品によっては痛みの描写が鮮烈なので苦手な人は少し懸念してしまうかもしれませんが、それでも是非読んでいただきたいです。

 最後に、文末にあるイラストが作品の世界観を綺麗に表していて、見たときに、映画のスタッフロールのような心地よい読後感をより一層高くしてくれます!

 続けて読むのが一番かと思いますが、どの作品も単発で楽しめる内容なので、気になったタイトルからチェックしてみてもいいと思います! ぜひ皆様にも楽しんでいただきたいです!

Profile

1989年11月9日生まれO型の、劇場公開、TVシリーズなどを手掛けるアニメ監督。旧名義はピエール伊東、特技はコーラの早飲み。アニメ作品の監督以外にも、実写作品や、絵本、TVアニメの原画などその活動は多岐にわたる。2022年5月には合同会社あにめ東京を設立、同社ホームページ(以下リンク)からはアニメーションの企画・制作などを受け付けている。

◆監督作品
未来への宿題(LPガス協会)
マウスマン(オンライン公開・劇場公開)
ケンダマスター拳(TVシリーズ・劇場公開)
セカイが滅びる前にキミに会いたい(劇場公開)
 など

そこに沈む魔女短編集 オーフィッシュオレンジを読む

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