アクアリウムライライラ
第一部 アクアリウムの白
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【033】第十四冊一章 ナマズカメラ

 ライライラは怒りの形相で、フォルナを睨みつけています。

「で、ライライラ。あなたは白椿を生み出したのが私だと思っているの? 思っていないの?」
「わかってねぇから聞いてんだよ!」
「はぁ。それじゃあだめよ。あなたがこれからやろうとしていることは、必ず敵を作る。自分で決めないと、誰かのせいにするだけ」
「ううー!」

 言葉に詰まりながらも声を出そうとしたせいで唸ってしまったライライラは、何度も地面を踏みつけました。

「で、どっちなのライライラ。あ、急に大人ぶって冷静になるのはだめよ?」

 フォルナはさっきの殴り合いの影響で、口にたまりはじめていた血を吐き捨てます。 

「ああ、もうだめだ」
「だから無理やり冷静になるのはだめって……」
「いや、ずっと思ってたんだけど、白椿をヒトガタにしたのは、フォルナじゃないとしか思えない。ごめんなミアーリナ。きっと妖精さんも勘違いしてるんだよ、それか緑色のジャージの魔導士がもう一人いるか」

 ミアーリナを見つめたライライラの瞳は、まっすぐでした。

「何回もおんなじようなこと繰り返したよ。泣いて、誰を信じていいか悩んで。でもさ、フォルナもミアーリナもネクロゼリアも……白兎もこの世界をちゃんとしたいって、白い病から救おうとしてるのは本当なんじゃないかなって」
「ら、ライライラ……自分は……」
「でも立場が違うから、ぶつかるとも思うんだよ。勘違いだってするし」
「…………自分は」
「だからごめん。私さ、いい子になろうとしてた。おまえにも嫌われたくなかったし、みんなに嫌われたくなかった。だから――」

 ひひっ。そんなミアーリナの笑い声がライライラの話を折ります。

「自分、敬語がやめれないんすよね。同級生なのに」
「ど、どうしたんだよ急に」
「しかもひとつおぼえまで格下。ライライラは魚を人間にできて……自分は勘違いするような妖精さん作るのがせいぜいっすよ」
「お、おいミアーリナ」

 フォルナとデンキウナギは、だまったまま二人のやりとりを聞いていました。

「自分、敬語がやめれないんすよ。同級生なのに」
「いや、私は敬語使えだなんて一度も……」
「もう嫌っすライライラといるのは。惨めになるんすよ」
「そんなことない……って、ミアーリナは私の知らねぇこといっぱい知ってるし、ひとつおぼえだって私にできないことできるし……」
「その口調もムカつくんすよ。ムカつく喋り方のくせに、周りは可愛い強がりって評価をする」
「お、落ち着けって」
「はぁ? 落ち着けって何様なんすか! 自分はっ……はは、自分なんていう一人称使っちゃって、おかしな話っすよね。二年生までは私って言ってたのにさぁ!」

 ミアーリナの怒声。ライライラの目に涙が浮かびます。

「救いの手が救いだけを届けてると思わないでくださいっす。ライライラに自分の気持ちなんてわかんないっすから」
「私は救いの手を伸ばしてるだなんて……」
「そうそう。そうそう。ライライラに気持ちなんてわかりっこない。そのとおりだミアーリナ、おまえの言うとおりだミアーリナ。たまに自分を私と呼んでしまった時の気分なんて、最悪なのになぁ。まぁ、平然と痛みに耐える気持ちはそいつにはわかんねぇよ」

 突然話に混ざってきた、今までその場にいなかった者の声は、ライライラが耳にこびりつくように覚えていた声でした。

「マリー! なにしにっ……」
「うるせぇよクソガキ。今はミアーリナの時間だ。なぁ、そうだろうミアーリナ、今はお前の時間だよなぁミアーリナ」

 星空のような髪と瞳。以前よりも刺々しいオーラをまとったマリーは、フォルナの顔を見ることもなく、ミアーリナとライライラのそばで立ち止まります。

「ミアーリナ。私が正当な評価を下してやる。正式に入れ、私の隊に。邪教討伐隊カンディルに入れば、フォルナとも正式に敵対、つまり正式にフォルナと仲よしこよしのクソガキの敵になれるぞ」
「…………」
「ミアーリナ、だめだ。そいつの言うことをきいたら……」
「黙れって言ってんだろクソガキが! なぁ、どうだミアーリナ。魔導士協会のエリート、邪教討伐隊の正式メンバーだぞ? そうなっちまえば魔導書いらずなんてただちょっと頭がいいだけのガキだ」

 ライライラはどうしようもなくなり、ボロボロ泣き出してしまいました。

「ほらな、結局泣く。泣く、泣く。でもミアーリナは泣かない。それで、フォルナ。そこで見ているだけのクソフォルナ。今の私とやり合う度胸はあるか? 今の私は相当調子いいからなぁ、サイフォン式七万はいけるはずだ。で、フォルナ。なぁ、フォルナ? どうなんだフォルナ? 今の私とやり合う度胸あんのかよぉ!」

 ライライラはフォルナに救いを求める視線を向けました。でも、フォルナから発せられた一言は、それを裏切るものでした。

「無理よ。この世界における純粋な力は体内魔力運用技術、もしくは総魔力量で決まる。そんなに増加しているあなたを相手にできるほど、私はこの世界では強くないわ」
「いい負け惜しみだぁ、いいぞフォルナ。いいぞいいぞフォルナ」

 がくり、膝をついたライライラは顔を覆って泣き続けます。

 

 

 

【033】第十四冊一章 ナマズカメラ  おわり
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