アクアリウムライライラ

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【038】栞の四 シロフタリ

 探したよ、白椿――――。

 そう言った少年は、白兎でした。手には青い液体の入った瓶を握りしめ、彼は白椿の後ろ姿に声をかけたのです。

「お姉ちゃんと一緒にいた?」

 振り向いた白椿の顔には、不快の色。

「そう。僕はライライラと一緒にいたのだよ」

 突き出された瓶を見て、白椿は二歩後ろに下がります。左足に二つ、右足に三つ膝があり、そのため、二歩目は一歩目よりも幅が広いという結果になりました。

「それを近づけるなぁ!」
「ライライラに固執するのはやめたまえ」
「こしつ……」
「君はわざと彼女に会わないようにしているだろう! なにを狙っているのだよ!」

 その空間にたちこめるのは、悲しい悪臭。

「おまえにも会いたくない」
「今僕の話はしていないのだよ!」
「知ってるだろ、おまえだけは白い病で死なない」

 え……と、白兎の顔色が変わります。今言われた事実を、まるで、知らなかったという顔に。

「ど、どういうことなのだよ!」
「その瓶を近づけるな! 私はいつかお姉ちゃんに会いにいくから。だから今は邪魔するな!」
「それはできない!」
「お兄ちゃんだろ! なら我慢しろ!」

 白椿はそう言うと、背を向けて全速力で走り去っていきました。

「お兄ちゃ…………くそっ……僕は…………………………………………なんなのだよ」

 瓶を持っていない方の手を握りしめ、唇を噛む。浮かんだ涙をこすり消し、その場にしゃがみこみ。

「ううっ…………ライライラ、助けて……」

 またこぼれた涙。その涙を断ち切るようにギュッと閉じた瞳。瞼の裏の暗闇に浮かぶのは、泣き虫のあの子の顔。

「君はどうして泣いているんだ。僕の頭の中でも……ぐぬぎーって、言ってほしいのだよ。元気に……生きている君をもっと見せてほしいのだよ」

 祈るように、瞳は閉じたまま。

「ライライラ」

 思考の波紋が起きて、その揺らぎの影響でほほえむかのような顔になりかけたライライラのイメージを、かき消すように重なった白く長い髪のイメージ。その、ひょろひょろとした後姿がゆっくりと……振り向こうとしていました。

「君は……僕じゃない」

 じわり、じわり振り向いた首の上についているのは、秒針のようにカチカチと回る、死者のようにうつろな目をした自分自身の顔。体の構造上ありえない動き…………その幻想は、閉じっぱなしになっていた瞳を開くことで終わらせることができましたが…………今度は、自分の首が正しくついていないかのような不安に襲われてしまいます。

「僕は白椿じゃない! なんにも関係ないんだ! そうだ……追いかけなきゃ。追いかけて、この薬を使わないと、白椿を、僕が、倒さないと……僕は、白椿と、関係あることになってしまう」

 白兎は立ち上がり、白椿が消えた方角へと走り出し、すぐに止まり「怖いよ」と呟きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この空間には生きた魚は、一匹もいません。

 

 

 

【038】栞の四 シロフタリ  おわり
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